遺品整理すると相続放棄できなくなる?遺品は故人の大切な財産
目次
遺品整理と相続の関係
大切な家族が亡くなられたとき、通夜・葬儀にはじまるさまざまな行事や公的手続きに追われる中でも、できる限り早いうちに遺品整理を始めたいと思われるご遺族は多いでしょう。
ですが、遺品整理は誰がしてもいいというわけではありません。
なぜなら、遺品整理は財産相続と深い関わりがある作業のひとつだからです。
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故人と血縁関係にあるから、生前に親しい間柄だったからといってむやみに遺品に触れてしまうと、正式に法定相続人となる方がするべき財産の処遇や相続関係そのものを不安定にしてしまう可能性があり、それによって混乱が生じる恐れもあります。
そのため、相続人が主導して遺品整理をするのが一般的ですが、最も注意したいのは相続人自身が財産を「相続する」か「相続しない」か決断する前に遺品整理をしてしまうことです。
相続人は、相続したくない財産や負債になるマイナスの財産があった場合、一切の財産を相続することを拒否(相続放棄)することができます。
ただし、緊急なケースを除いて相続放棄をした方は原則、遺品整理することができないというルールも知っておく必要があります。
遺品整理は一見単純なお部屋の整理や片付けのように思える作業ですが、整理整頓したり処分する作業というのは遺品の所有権を引き継いでないとできないので注意しなければなりません。
遺品整理すると相続放棄できない理由とは
家族が財産を遺して亡くなったときは、まず「誰が相続人なのか」「何が相続する財産なのか」を調べることが最優先にするべきことであり、財産相続の第一歩と言えます。
相続人になる人にも民法で決められた優先順位がありますし、相続する財産と相続時点における評価額を確認した上で、実際に引き継ぐのか、相続する権利を放棄するのか、一部だけ相続するのかといった選択をしなければなりません。
相続に関する方針を決定する前に遺品整理をしてしまうと、民法第921条で定められている「相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、単純承認をしたものとみなす」に則って相続を承認したものとみなされてしまい、引き継ぎたくない財産があっても相続を拒否できなくなってしまう可能性があるので注意が必要です。
民法第921条|法定単純承認 |
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。 一、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。 二、相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。 三、相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。 |
「引き継ぎたくない財産」とは、一般的に故人(被相続人)が残した未払いの医療費や家賃、金融機関などから借りたお金やローンなどの負債、いわゆる「マイナスの財産」を指しています。
「プラスの財産を相続する権利」と「マイナスの財産を返済する義務」について正しい知識を身に付けていなければ、相続放棄が選択できなくなるだけでなく、取り返しのつかないトラブルに発展してしまったり、遺族や相続人間で争いが生じる可能性もありますので、経済的価値を持つ遺品の扱いや遺品整理をはじめるタイミングは慎重に検討する必要があると言えるでしょう。
形見分けはしてもいい?
相続放棄をする場合でも、在りし日の故人を偲ぶ写真や生前に取り交わした手紙、愛用していた衣類など経済的価値がないと断定できる遺品であれば、整理したり形見品として引き取っても問題ありません。
しかしながら、高価な家財や宝飾品、貴金属、骨董品、美術品など明らかに換価価値がある遺品、いわゆる「プラスの財産」に値する物を形見分けするのであれば相続人全員による遺産分割協議で相続分を正しく分ける必要がありますし、一つでも価値がある遺品を受け取ってしまうと「相続の承認」に該当するため相続放棄はできなくなるので慎重に判断しなければなりません。
「この遺品に経済的な価値はない」と明確に断言できるかどうかは難しい問題です。
遺品を処分する行為そのものが隠匿にあたり「相続の承認」とみなされることもありますので、「ほかの遺品には触れていない」ということが確実に証明できる状況でなければ、相続放棄が正式に受理されるまで遺品整理に関わらない方が無難と言えるでしょう。
財産を相続する3つの方法
相続する方法には「単純承認」「相続放棄」「限定承認」という3つの選択肢があります。
相続財産を所有している方(被相続人)が亡くなると民法で決められた相続人(法定相続人)に対して相続が開始されることになりますが、否応なしに「プラスの財産を相続する権利」と「マイナスの財産を返済する義務」の両方を引き継ぐことになったら、経済的価値のある財産よりも債務が上回っていた場合、相続人自身で蓄えた資産まで失ってしまったり、借金を負ってしまう恐れがありますよね。
このような事態を避けるために、相続人には「マイナスの財産を返済する義務」を拒否することができる措置がとられているのです。
ただし、被相続人が亡くなり相続が開始された日から3ヶ月の期限内(熟慮期間)に相続する方法を決断する必要があり、この期間内に「相続放棄」か「限定承認」の申告手続きをしなければ、自動的に「単純承認」したとみなされますので注意が必要です。(民法第915条第1項、第921条2号)
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単純承認(たんじゅんしょうにん) |
亡くなられた方が遺した遺品を含むすべての財産を引き継ぐ一般的な相続方法です。 単純承認する場合、特別な手続きを行う必要はありません。 相続が開始された日(被相続人が死亡した日)から3ヶ月を経過すると、すべての財産における権利義務を承継したものとみなされ、自動的に「単純承認」したことが認められます。 |
相続放棄(ざいさんほうき) |
相続放棄は、相続人が被相続人(故人)の財産を一切相続せず、相続の権利そのものを放棄することです。 マイナスの財産がプラスの財産を上回ってしまう債務超過の場合や、複数人いる中から特定の相続人に資産を集中させたい場合に選択する相続方法です。 相続放棄するためには、相続が開始された日(被相続人が死亡した日)を知った日から3ヶ月以内に、亡くなった方の最後の住所地にある「家庭裁判所」へ相続放棄の申述を行い、それを受理される必要があります。 一度受理された相続放棄は、他の相続人や関係者間で混乱を招かないためにも、特別な事情(詐欺や強迫による意思表示だったなど)がない限り、取り消しや撤回をすることはできません。 |
限定承認(げんていしょうにん) |
財産の中にマイナスの財産があった場合、相続によって得たプラスの財産の範囲内で債務を負担し、相続財産を超える負債が残っても支払い義務がなくなり、逆にプラスの財産に余りが出れば引き継ぐことができるという相続方法です。 故人(被相続人)が借金を残して亡くなった場合や、借金がどの程度あるかわからないという場合、特定の財産を残しておきたい場合などに有効な相続方法のひとつです。 限定承認するためには、相続放棄と同様、相続が開始された日(被相続人が死亡した日)を知った日から3ヶ月以内に、亡くなった方の最後の住所地にある「家庭裁判所」へ限定承認の申述を行い、それを受理される必要があります。 |
相続放棄しても遺品整理が必要なケース
ここまで「相続放棄をするなら遺品整理をしてはいけない」ということをお話ししてきましたが、相続を放棄した場合や相続方法を検討している3ヶ月の熟慮期間内であっても、遺品整理をしなければならない特殊なケースもあります。
孤独死の場合
相続放棄をすると決断していたとしても、故人が孤独死で亡くなられた場合にはすみやかに遺品整理をしなければなりません。
「独居死(どっきょし)」と言われる「孤独死(こどくし)」は、言葉通り一人暮らしの方が誰にも看取られることなく息を引き取り、死亡後に発見されることを意味していますので、発見が遅れた場合には遺品整理だけでは解決できない問題が起きていることも考えられるからです。
近隣住民から寄せられた「悪臭がする」「溜まったゴミが異臭を放っている」といった苦情によって、独り住まいの方が亡くなっていたことが発覚することも珍しいことではありません。
発見が遅れると遺体の腐敗が進行していたり、害虫が大量に発生していることもあるため、遺品整理だけでなく除菌・消臭、汚物除去、害虫駆除などを行う特殊清掃をせざるを得ない緊急なケースもあるでしょう。
たとえ相続放棄すると決めていたとしても、死亡された状況によっては早急に対応しなければならない「例外」があるということを知っておいてください。
賃貸借契約の連帯保証人だった場合
相続人が故人(被相続人)の賃貸借契約において連帯保証人となっていた場合は、相続放棄しても賃貸物件の原状回復に伴う義務と責任が解消されるわけではないので注意が必要です。
賃貸借契約の連帯保証人は、債務者(契約者本人)と同等の責任を負うことを契約によって約束した第三者となりますので、「相続する権利を放棄すること」と「遺品整理の義務がなくなること」は別問題と認識しておきましょう。
故人の賃貸契約に対して連帯保証人になっている方は、解約する際に必要となる遺品整理(原状回復)と関連する修繕費用を負担することになります。
ただし、相続放棄するのであればすべての財産に関わることができなくなるため、財産のひとつである賃貸契約の解約手続きには一切対応できません。
オーナーや管理会社などに対応を迫られたとしても、法律上、相続放棄した方は「相続人ではない」とみなされるため解約に応じることはできないのです。
財産の管理義務がある場合
民法第940条では、相続放棄をしても次に相続する人が相続財産を管理できる時まで、「相続人」である限り管理義務があると規定されています。
そのため、故人(被相続人)の財産に管理が必要な賃貸住宅や建物・土地があった場合は、相続放棄しても管理義務が残ることになるのです。
この場合、「連帯保証人」ではなくても「相続人」である限り、財産を管理する人が決まるまで管理義務が継続されるということになります。
民法第940条|相続の放棄をした者による管理 |
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。 |
民法第940条で規定された「財産の管理義務」を放棄したいという場合には、財産の管理を代行してもらう「相続財産管理人」を家庭裁判所に選任してもらうことができるということも知っておくと安心です。
ただし、相続財産管理人の選任を申し立てた方は、管理業務の経費や報酬を支払うための資金となる予納金(20万円~100万円ほどの相当額)を家庭裁判所に対して納付する必要があります。
遺品整理で相続問題が起きないためには
財産と言うと、土地や建物といった不動産や預貯金、有価証券、高価な宝飾品や貴金属といった経済的価値のある遺品など「プラスの財産」のイメージが先立って思い浮かびますが、被相続人が亡くなったことによって家族や親族にも明かしていない負の財産が発覚するというのはよくあることです。
本来ならば、被相続人が生前整理の一環で遺言や財産目録を作成しておき、遺族や相続人が相続で争ったり負債の弁済に追われることがないよう、財産について明らかにしておくことが理想的ですが、借金などは家族に秘密にしているケースが多いため、被相続人が亡くなってはじめて「隠れ借金」が判明することも珍しくありません。
「遺品整理をしたばっかりに相続放棄することができなくなった!」というトラブルを防ぐためにも、遺品整理と財産相続の深い関わりについて正しい知識を持ち、故人が残した借金の肩代わりやローンの返済などマイナスの財産を引き継ぐことがないようにしたいものです。
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自分の判断で遺品整理をしない
明らかに負債が多い場合や相続問題に巻き込まれたくないという目的を持ち「相続放棄する意思」がある場合は、むやみに遺品に触れないことがとても重要です。
また、亡くなられた方の遺言書が存在する場合は指定された内容に従って遺品整理を執り行う必要がありますし、相続人が複数いる場合は共有する財産を法定相続分に基づいて分割しなければなりません。
勝手に故人の所有品を整理整頓したり処分してしまった場合には、罰則の対象になるなど取り返しのつかない大きなトラブルに発展してしまう可能性もあります。
故人が遺した持ち物はすべて「遺品」となり、所有する権利は「相続人」に寄与されるため、遺品整理は基本的に「財産の相続を承認した相続人」が行うことになります。
しかし、相続権を拒否したい場合や相続人間で遺産の分割が済んでいないにもかかわらず独自の判断で遺品整理してしまうと、さまざまな矛盾が生じたり、権利関係が複雑になることが予想されます。
遺品整理で相続トラブルが起きないようにするためには、遺言で指定された方や法定相続人が正しく財産を引き継いですべての相続が完了するまで遺品に一切触れないこと、決して独断で遺品整理をしないことが確実です。
遺品整理専門業者に依頼する
遺品整理によって生じる相続関連のトラブルを防止するために、遺品整理専門業者を利用するのも最善なひとつの方法と言えます。
法令や実例に基づく専門知識を備えた遺品整理士が在籍する業者の遺品整理サービスなら、正しく分別した上で「処分してもいい遺品」と「保管しておく遺品」を適切に仕分ける以外にも、遺族の要望や状況に応じて法律のエキスパートである弁護士や行政機関など各分野における専門家の紹介や手配といったコーディネートを全面サポートしてもらうことも可能です。
遺品整理に参加した相続人や親族間で遺品や相続をめぐる揉め事や言い争いが起こることもありますし、トラブルに発展したことで決められた期限内に必要な相続手続きができないという事態にもなりかねません。
事情によっては個別な判断が必要なケースもありますので、専門家のアドバイスが悩みの解消や問題解決の糸口になることもあるでしょう。
また、孤独死などが原因でダメージを受けた住居の原状回復は一般の清掃業者でも手に追うことができませんので、汚物除去や消臭、除菌、害虫駆除に対応する特殊清掃も行う遺品整理専門業者に任せるのがおすすめです。
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最後に
亡くなられた方が所有していた生前の愛用品は「遺品」であると同時に故人の大切な「財産」でもあります。
たとえ経済的価値がないと思えるような遺品でも、相続にどのような形で影響を及ぼすかわかりません。
相続人や親族に相談もせず、合意を得ないまま遺品を持ち出したり、勝手に処分してしまうと取り返しのつかないトラブルに発展してしまう可能性もありますので、相続人以外の方はもちろん、相続人のひとりであっても財産の分割や相続放棄を考慮した上で慎重に遺品整理と関わるようにしましょう。
相続は金銭が絡む問題である以上、「争続」と表現されるようにどんなに親しい間柄であっても揉めることはあります。
それでも、相続人同士、親族同士の関係性が「財産」を巡って悪化することがないよう努力することが大切です。
財産相続については分割や継承について相続人全員でしっかりと話し合い、伝えるべきことをきちんと伝えた上で必要な手続きを進める必要がありますので、良かれと思って行った遺品整理が思わぬ相続トラブルに発展しないよう、弁護士や遺品整理専門業者など各分野の専門家に相談しながら進めると心強くて安心です。
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